【兵庫県・播磨地域】その先生は、やたらとチョコをくれた

「人にされて嬉しかったことを、他の誰かにお裾分けしなさい」

幼い頃に通っていたカトリック系の幼稚園で神父から口酸っぱく言われ、今も実践している数少ないことの一つだ。主が貧しい人たちにパンだかワインだかを分け与えた結果、幸せはどんどん増えていったのだと、ありがたい聖書を引用しながら説明されたのを覚えている。

当時は全く意味がわからず、「分けたら俺の減るやん」と思っていたが、分け与えればみんなで幸せになれるのだと大真面目に言う神父の目を見ていると、なんとなく正しい気がして「ほなやるわ」と実践していた。

カトリック系の幼稚園に通ってはいたが、現在特に信教があるわけではない。いろいろ教わった気もするが、ほとんど記憶に残っていない。聖書の話もモーセという髭面のおじさんが杖で川を割った話くらいしか覚えていない(聖書の絵がめちゃくちゃ衝撃的だった)し、「洗礼だ」といって教会で神父からゴブレットの水をスプーンでぶっかけられたときは「なにすんねん」とキレそうになった。

そんな大した思い入れも思い出も無い幼少期エピソードだが、「幸せは分け合えば増える」といった不思議な話は自分のなかに一つかみの砂金として残り、卒園して数十年後、大人になってからその価値の大きさを知ることになる。


東大阪市で小学校教諭として働いていた当時、そこそこ仕事がしんどくて、よく職員室でフラフラになりながら指導案を書いていた。別に毎回書く必要は無いんだけど、教師の腕は授業で決まると信じていた自分にとって、そこは手を抜けなかったんだと思う。

もう無理だ。いや、もうちょっと頑張るか。日付変わらなければ6時間は寝られるし……。

あくびして背伸びをすると、決まって目が合って声をかけてくる先輩の先生がいた。

「中野先生、チョコ食べるか?」

と。

優しい先生だった。とても優しい先生だった。先生の言葉に何度救われたかわからない。教員として教壇に立った当初、授業がうまくいかず子どもに怒号を飛ばすも火に油で、数ヶ月でクラスは荒れた。よく職員室で「指導力が無い」と管理職に詰められていると、どこからともなく現れて「お腹空いてるやろ」とチョコをくれる。いつも本当にすみません。ありがとうございます。恥ずかしくて俯きながらそう言うと、ニヤッと笑って「かまへんで」と返してくれる。懐の深い、まさに山のような先生だった。

「影響力のある人間はご機嫌じゃないとあかん」がその先生の信条で、どんな状況下であれ常に泰然自若な雰囲気をまとっていた。「子どもは大人の姿をよく見てるからな。こっちがイライラしてたら子どももイライラする。中野先生みたいに目立つタイプは尚更や。教室入ったらご機嫌でないとあかんで」。なんかえらそうなこと言ってしもたわーと笑いながら、そう教えてくれた。最後に必ずユーモアを入れ、説教臭さを感じさせない言い方をする。そんな若手に対しての心遣いが上手な先生でもあった。


仕事に慣れて、何とか授業も形になってきた頃。新任の後輩が数人入ってきた。初めての担任、初めての授業、初めての校務分掌……。初めて尽くしの環境で四苦八苦しながら仕事に取り組む彼らの姿に、昔の自分の姿が重なった。先生のように気の利いた言葉でもかけて元気付けたいとは思ったが、見て見ぬふりを決め込んだ。なんとなく小っ恥ずかしいのと、たかが2,3年先輩だからと偉そうなことを言えばウザがられるかもしれないという怖さがあったからだ。

「後輩に冷たいわー、中野先生」と、先生は自分をからかった。デスクの近くで困っている後輩にうまく手を差し伸べられていない自分を見て、声をかけずにはいられなかったんだろう。「困っている子がいるんやから、『元気出せよ〜!』って声かけたったらええのに」「いやいや、柄じゃ無いっすよそんなの」「もったいないわー。自分のご機嫌とれるようになったら、周りにも分けたげたらええのに」ーー。

そのとき、先生は言った。いつかの神父と同じ、あの言葉を。

「人からされて嬉しかったことは人にする。”恩送り”や。ご機嫌ってのは分け合えば増えるんやで」

心に残る言葉を思い出したからといって、劇的に行動が変わるかというとそう簡単にはいかない。実際不器用なもので、大事なことだとわかりつつもなかなかうまく声をかけられなかった。そんな中、何か自分にもできることが無いだろうかと考えていると、机にあった先生からもらったチョコレートの包み紙が目に入った。そうだ、これならできる。俺もチョコレートを配ろう。

以来職場や環境が変わっても、先生の教え通り人と関わる際はできるだけご機嫌であれるように心がけている。そして、少しでもそのご機嫌を分け合えるよう、心と財布に余裕があるときは周りにチョコレートを配るようにしている。

気の利いた言葉がけができるような柄じゃないし人の感情の機微にも鈍い。でも、職場では人一倍笑顔で過ごすとか、イベントや会議で「なんか空気悪いな」と気づいたとき、チョコひとつで場を和らげられるとかなら、それくらいのことは不器用な自分でも続けられるんじゃないかと思って続けている。


ねえ、先生。
うまくはできへんけど、そんなもんでかまへんのでしょう?

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この記事を書いた人

ロペス

1992年、奈良県生まれ。少年の心を忘れない26才児。paletteの編集長兼ライター。通称「ロペス」。畿央大学教育学部を卒業後、東京の人材派遣会社に就職。その後小学校教諭、塾講師、認定子ども園保育補助を経て現職。人、モノ、場所の魅力を引き出し、記事として発信するため日々奮闘中。目下の悩みは「終わらない成長期」。ダイエット方法募集中。