【兵庫県・播磨地域】『零話』 【Lifetime Blues】

令和という美しい響きが世の中に満ちた昨年。
改元までのカウントダウンは、さながら”世紀末”。

時代の終わりは物悲しく、哀を抱きしめていた。
平成で生まれ燻っていた火種を持ち越して、新時代を駆け抜けていた私だったが、今年の三月になって突如それを見失ってしまった。

コロナウイルスの流行により、私はミュージシャンとしての仕事を全て失ってしまったのだ。


空いた時間を利用して、以前から抱えていた問題を解決することにした。

強迫性障害、という病をご存知だろうか。
詳細は割愛するが、私はその病の治療のため、3月の中旬から地元姫路の病院に入院することになった。

気持ちの余白に何も書き込むことなく、ただひたすらに流れていく時間を感じる日々。無気力になり制作意欲も湧かず、ギターという楽器からもしばらく離れて、果たして無事に現場復帰できるのだろうかという一抹の不安を抱えつつ治療に専念し4月、退院を迎える。

兵庫県 姫路市 淳心 ミュージシャン 三木雄輝 ライティング エッセイ ライター

体調が落ち着いてからしばらくは、今まで関わりのなかった日雇いの仕事をして過ごした。
短期ではあるが、月曜日から金曜日までフルタイムで労働した時間と、音楽に生きていれば出会わなかったであろう人たちとの出会いは、私に知らない幸せの形を提示し価値観を大きく変えていった。

誰が決めたかも分からない普通の幸せというものへの憧れは、再びミュージシャンとして生きていく気持ちを作る上で足を引っ張る経験となる。
このまま地元にいて仕事を続けていくという生き方が脳裏によぎり、東京でまた戦っていくという気持ちが薄れ始めていた。

非日常が日常に変わりつつある中、ふと思い出したのは部屋の隅に追いやられて埃をかぶったギターケース。一ヶ月以上も放置されインテリアに成れ果てた様に、存在衝動が内側からこだまする。

兵庫県 姫路市 淳心 ミュージシャン 三木雄輝 ライティング エッセイ ライター

焦燥感に動かされケースを開くと、中には慣れ親しんだギターと一緒に、闘志と承認欲求の入り混じったなつかしい火種が顔を覗かせた。チューニングはすっかり狂ってしまっていて、地元に帰ってくる前の不安定な私と重なり、苦笑い。
錆びついた弦にすっかり柔らかくなってしまった指先を乗せて、得意としていたフレーズなんかを思い出しながら弾いてみたが、案の定上手く弾けなくなっていた。

そうか。一ヶ月以上も弾いてなかったのか。

思い返せば人生の半分以上をこの楽器にすがって生きてきた。
人に誇れるものが特になかった私が見つけ出した、唯一のアイデンティティ。

オーバードライブ。鳴り散る歪んだ音に魅入られて十数年と経った今、そんな狂器に触れて再び火種が燃え上がるのを感じた。
心の奥底からなつかしい温度が戻ってくる。
この情熱の前では、安泰などただのノイズにすぎない。

兵庫県 姫路市 淳心 ミュージシャン 三木雄輝 ライティング エッセイ ライター

このまま地元に就職して落ち着いた生活を手に入れるのも悪くない。趣味でも音楽は続けられる。

でも、諦められない夢が、幻が、錆びた鉄弦に乗って叫んでいるから、私は日の目を見ることのなかった私を引っ提げてまた生きていくことにした。

愛と絶望の歌を掲げ、燻り続けたミュージシャンは、今ここに帰ってきた。

コンプレックスの具現化、鳴り止まないシュプレヒコール。命を削って音を書こう。なすべきことをなさねばならない。そのために醜くも美しく嘆き続けたいと思う。

私にとってこの時代はまだ零話だ。始まったばかりである。

兵庫県 姫路市 淳心 ミュージシャン 三木雄輝 ライティング エッセイ ライター

Follow me !!

お仕事(インタビュー・取材など)の相談は
こちらから。

この記事を書いた人

三木 雄輝

1993年 兵庫県姫路市生まれ。姫路市の淳心学院中高等学校を卒業後、神奈川県川崎市の洗足学園音楽大学に進学。
卒業後、東京を中心にギタリスト・作詞作曲家として活動中。2015年 エマージェンザジャパン ベストギタリスト賞受賞。美しい言葉をギターサウンドに乗せた耽美的なロックを追求。趣味は執筆と写真を撮ること。