「どれだけ良いモノをつくっても、認知されなければ、届かなければ無いのと一緒」。
情報過多の昨今、どれだけ良いプロダクトやサービスをリリースしても、次々と波のように押し寄せる情報に埋もれてなかなか見つけてもらえない。
ものづくりの関係者やクリエイターであれば、必ず一度は抱える悩みの一つだと思います。
良いモノをつくるだけでなく、適切にターゲットに届けるためにどうすればいいのか。
また届いたモノを、どうしたら大切に愛着を持ってもらえるだろうか。
そんな課題を解決するヒントを得るべく、今回兵庫県姫路市のコワーキングスペースmoccoで行われている企画「南町Talkingweekend」に、”編集力”を活かして地場産業に革命を起こした二人の兄弟にお越しいただきました。
トークテーマは「地場産業を盛り上げる”編集力”」。
今回はお二人のこれまでの活躍とこれからの挑戦、そして”編集力”について語られた、盛りだくさんのイベントレポートです。
南町Talkingweekend
「南町 Talking weekend」は、姫路・はりまにおいて、まちづくり・デザイン・教育などの特定のテーマにちなんだゲストを囲み、お酒と軽食をあてにフランクに情報交換できるイベント。姫路城が見えるコワーキングスペースmoccoの6階イベントスペースにて定期的に開催してきました。


今回から趣向を変え、姫路コワーキングスペースmoccoのスタッフが、「是非この人にお話を聞きたい!」と感じた魅力的なゲストをお呼びし、お酒と軽食をあてにフランクに皆さんとともに交流する場へと進化。今後魅力的なゲストに多数お越しいただく予定です。
vol.5「地場産業を盛り上げる”編集力”」

「地域資源は探せばあるものの、うまく活かしきれていない」
地域で仕事をしていると、そういった声がよく聞こえてきます。
ただ資源をアピールするだけではなく、価値を捉え直し、独自の編集をして発信しているプロダクトやサービスが注目を浴びている昨今。その”編集力”について、ゲストの島田さんからお話を伺います。
(イベント告知文より)
山脇 耀平(EVERY DENIM)

EVERY DENIM共同代表・兄 1992年生まれ。淳心学院高等学校卒業。大学休学中の2014年、実の弟とともに「EVERY DENIM」を立ち上げ。オリジナルデニムの販売やスタディツアーを中心に、生産者と消費者がともに幸せになる、持続可能なものづくりのあり方を模索している。繊維産地の課題解決に特化した人材育成学校「産地の学校」運営中。
島田 舜介(EVERY DENIM)

EVERY DENIM共同代表・弟 1994年生まれ。加古川東高校卒業。大学への進学を機に岡山のデニム工場を訪問。国産ジーンズ発祥の地・瀬戸内に集積する工場では、世界から高い評価を受ける技術が継承されていることを知る。高い技術の存在を多くの人に知ってもらい、作り手と売り手の距離を縮めることをテーマに「消費されないデニムを届ける」という理念を掲げ、実の兄と2人でデニムブランド「EVERY DENIM」を立ち上げる。
「EVERY DENIM」
「EVERY DENIM(エブリデニム)」は瀬戸内エリアに集積する工場で作られるジーンズの作り手と売り手の距離を縮めることをテーマに、“消費されないデニムを届ける”という理念で2015年に誕生したブランドです。
EVERY DENIMの始まり
イベント当日は「ものづくり」に関わる人たちや島田さんが所属していた高校の後輩の学生さん、まちづくりの関係者などが参加。
お二人の自己紹介から始まり、テーマである「地場産業を盛り上げる”編集力”」についてみんなで学んでいきます。



「EVERY DENIM」は「消費されないデニムを届ける」ために、お二人が岡山県で立ち上げた地域発のブランド。
なぜこうしたビジネスを立ち上げるに至ったのか。お二人は学生時代まで遡りながらお話ししてくださいました。

弟の島田さんは岡山大学在学時からベンチャー企業の研究会に所属し、起業家を招待してセミナーを開いたり、ビジネスコンテストを行ったりしていたそうです。その中で徐々に「自分のやりたいことで仕事をしていきたい」との想いが生まれたのとのこと。
当時身近な人たちの「休日を楽しみにしながら働く」といった生き方に違和感を持った島田さん。「人生の中で大半を占める仕事の時間。楽しくないより楽しい方が良いと思っていたんです」。
そんな島田さんの転機となったのが、ジーンズの工場見学でした。「ベンチャー企業の研究会に来ていたジーンズブランドの方が実際に工場へ連れて行ってくださり、そこで初めてデニムという地場産業に触れました。親がジーンズを好きだったこともあり、自分もその魅力に惹かれていきました」。
在学中に地場産業の魅力に触れ、可能性を感じた島田さんはその後企業。今の「EVERY DENIM」へとつながっていきます。

「僕はあまり周りの働き方や大人に対してそんなことは思わなかったけどなあ(笑)」と笑いながら話してくださった兄の山脇さん。「僕は以前、会社組織の中で上手くパフォーマンスが発揮できなくて潰れそうになったことがあったんです。でも『EVERY DENIM』での働き方は自分に合っていて、今はとても充実して働いています」。
最初は消極的な理由だったと語る山脇さんですが、現在の「EVERY DENIM」では岡山県で腰を据えて活動している弟の島田さんと、大都会の東京で活動している山脇さんの二人三脚で、地方と都心両方に関わりを持ちながら良い形でお仕事ができているそうです。

お二人のこれまでの歩みを伺った後は、現在クラウドファンディングに挑戦中の「EVERY DENIM」の初拠点となる「DENIM HOSTEL float」についてお話しいただきました。
「僕たちはこれまで店舗を持たず、全国を周りながらデニムの販売会を行ってきました。その中で『どこに行けばデニムを買えるの?』『せっかく岡山まで来たので、お店があれば寄っていきたい』といった声を多く聞くようになり、行く先々で会った人たちを迎え入れる場所が欲しいなと思ったんです」と山脇さん。
クラウドファンディングページをのぞいてみると、なんとすでに286,6000円を調達。目標額の100,000,00円まで着実に近づいています。






デニムを手に47都道府県を旅してきたお二人が「自分たちも、人を暖かく迎え入れ、地域のことを紹介できる場所がほしい」との想いで始めた「DENIM HOSTEL float」。播磨地域出身の若い起業家の挑戦は下記リンクより応援できますので、是非。

「地場産業を盛り上げる”編集力”」
「EVERY DENIM」のこれまでを聞いた後は、今回の核テーマである「地場産業を盛り上げる”編集力”」について。もともと地域にあった産業をブランド化し盛り上げてきたお二人から、その”編集力”についてお話を伺いました。
まず最初は「コンテンツの届け方」。
どれだけ良いモノをつくっても、認知されなければ、届かなければ無いのと一緒。どのような業界であれ、プロダクトやサービスのリリース時はそんな厳しい現実に悩まされてきたことでしょう。
山脇さんは「コンテンツの深さと届き方」についてお話をしてくださいました。
「コンテンツの深さと届き方には相関関係があると思っています。深ければ刺さりやすいけど、多くの人には届きにくい。逆に浅ければ間口は広くなってより多くの人に届けられる。工場の方と商品をつくる際には深く、市場に出してより多くの人に届ける際にはわかりやすく関わりやすいよう”編集”して届けています」。


「ブランド設立時から、どうすれば僕たちのことを気に入ってもらえるのかは常に考えてきました。『地方で活動している』『兄弟でやっている』『全国を旅している』など、食いつきやすいストーリーを前面に出す工夫をしています。デニムに対する熱い気持ちはありますが、そこばかり押し出すと専門的でわかりにくかったり、とっつきにくかったりする」と話してくれたのは島田さん。より多くの人に「EVERY DENIM」を届けるため、戦略的なブランディングを行なっていたそうです。
また「会いたい人リスト」なるものも準備し、「EVERY DENIM」の購買層になり得る、発信力がある人のリストをつくっていたとのこと。そういったターゲットに積極的にアプローチし、メディア露出を増やし、「EVERY DENIM」の活動の幅を広げてきたとお話ししてくださいました。

質疑応答の時間では、「なぜコットンを育てるプロジェクトを始めたのか」といった質問が。(山脇さんはつくり手とつかい手が心地よくつながる「えぶりシティ」というコミュニティを運営しており、そこでコットンから服を育てる「服のたね」プロジェクトを行っています。)
こちらの質問への山脇さんの答えから、「ファンづくり」について学ぶことができました。
「洋服の生産背景に興味を持ってもらうためのハードルを下げたいとの想いがあり、それがプロジェクトを始めたきっかけでした。また、どうやったら服を長い間大事にしてくれるだろうと考えた結果、一緒につくれば愛着を持ってくれるのではないだろうかと思いついたんです」と山脇さん。生産過程を共有することで、出来上がった製品に対して愛着を持ってもらおうとの狙いがあったそう。
「EVERY DENIM」を通して伝えたいことはとてもシンプルですが、理論的なことや考え方を言葉で伝えようとするとどうしても複雑なものになってしまう。だったら一緒に楽しみながら体感できるような仕組みにしようと考え、「服のたね」が誕生したとのことでした。
一方的にこちらの想いを伝えるのではなく、低いハードルから「EVERY DENIM」に関れるよう入り口を設計し、その世界観を体感することでファンが育っていく。こうした取り組みはものづくりだけでなく、様々なプロダクトやサービスに応用できそうです。
EVERY DENIM新作5thモデル「真ん中デニム『Spoke』」
講演後はお二人にお持ちいただいたデニム、新作5thモデル「真ん中デニム『Spoke』」を実際に手に取って楽しめる時間も。

素材は明治25年に創業し、デニムの一大産地である広島県福山市で120年以上に渡って糸を染め続けてきた老舗染め工場「坂本デニム」の天然藍を100%使用した糸を使用。生地は同じく福山で明治時代から生地織りに関わる老舗工場「篠原テキスタイル」が織り上げました。原材料であるオーガニックコンだけではなく、染料にもこだわったエシカルなデニムです。
参加者のみなさんは次々にデニムを手に取り、その質感を手のひらで感じていました。




またこの自由時間を使い、地元で地場産業に関わる学生さんや、デザイナーの方がお二人に積極的に質問。とても丁寧にお答えいただいていました。


イベントを終えて
「地元でイベントをやるのは初めてなんです」
とお二人から伺い、これは素敵なイベントでお迎えしたい!と気合いを入れて企画した今回の南町Talkingweekend。参加者との積極的な交流もあり、とても学び多き時間となりました。
今後播磨から、今日学んだ”編集力”を活かして新たなブランドが誕生したり、伝統工芸の活路が開かれたりといった好影響が生まれることを願って止みません。
播磨は歴史の深い地域で伝統工芸も多く、特に姫路は「革」で有名な地域です。
paletteでも今回学んだ”編集力”で、地域産業を紹介し、盛り上げる一助になれるよう活動していきます。
ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました!

参加してくれた学生ライター、藤本くんがイベントレポートを書いてくれました。paletteとはまた違った学生の目線からイベントが紹介されています。是非合わせてご一読ください。
・兄弟ふたりで、学生時代に、地方にて、デニムブランドを立ち上げるということ(note)