【兵庫県・加古川市】広がる「静かな革命」の火。変われるか、日本の教育【播磨教育サークル「枠惑(わくわく)」学習会~オランダの風を感じて~】

こんばんは。
播磨の魅力を発信するメディア「palette」のライター、ロペスです。

不登校、学力格差、いじめ問題、教員の長時間労働……。

テレビや新聞などで見にする教育の話題は暗く、昨今の日本の教育を取り巻く環境は日に日に厳しくなってきています。私自身が元小学校教諭ということもあり、他人事としては流せず、SNSで流れてくる情報を見る度「なんだかなあ」とモヤモヤしていました。

少し興味があって調べてみると、実はこうした問題は日本だけではなく諸外国でも同様に起こっていたそうなんです。特に陸続きで隣国と接しており、特定の宗教を持つ国で問題になるのが「移民問題」「宗教間の対立」。国を追われ家庭環境に恵まれなくなった子ども、宗教の違う子ども、障害を持った子ども、移民労働者の子ども……。彼らを受け入れ、国内で育てていくために、教育はどうあるべきか。

19世紀、こうした問題に対応すべく議論を重ね、国を挙げて大改革を行った一つの国がありました。

ユニセフの行った「子どもの幸福度調査」で先進国中第1位を記録した「世界一の教育力」を持つ国、オランダです。

多様な子どもたちに教育を提供すべく、「教育の自由」がオランダ憲法に明記され、国全体でオルタナティブ教育の考え方が広がり始めたのが19世紀。その後オランダでは政府によって画一化された教育を行うのではなく、個々の子供に対して方法や教材を変えて教えることで平等な教育の実現を目指し、ついに「世界一の教育」と言われるまでに成長したそうです。

・参考記事
「世界一の教育」オランダの小学校は日本とはレベルが違った

「世界一の教育力」を持つオランダの教育を学ぶべく、この夏、教育学習会「枠或」のメンバーたちが現地に足を運びました。
日々教育の諸問題と前線で戦う教師たち。同じ様な課題を抱え、それを乗り越えてきたオランダの地で、彼らは何を見て、何を感じ、何を学んで帰ってきたのか。

加古川ライター、ロペスのイベントレポート。今回は、有志の教師たちが立ち上げた教育学習会「枠惑」のイベント「枠惑学習会~オランダの風を感じて~」についてです。

オランダの教育〜門積先生・とっくん〜

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イベントでは実際にオランダの教育を見てきた教師二名と、オーストラリアでの教育を見てきた学生との合計三名の教育関係者が発表を行いました。トップバッターは「枠惑」の代表で、兵庫県宍粟市の小学校教諭をされている門積 健太先生。

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門積 健太先生のインタビュー。

発表ではオランダの「教室環境」「授業内容・形態」が紹介され、最後にオランダ視察で学んだことを日々の授業でどう生かしているのかについて実践報告が行われました。

門積先生:「オランダの教育環境では随所に『子どもが安心して学べる雰囲気作り』のための仕掛けがありました。職員室には壁がなく、教師と児童がゆるやかに交流できる配慮がされている。教室は明るく、花が飾られていて柔らかい雰囲気に。授業の風景も円になって話し合う(サークル)ように席移動が柔軟で、人と人との関わり方にも工夫がされていました」

スライドを用いてオランダの特徴的な教室環境を発表しつつ、日本との相違についても指摘。ただ形を真似るだけでなく、「なぜこうなのか」「どういった意図のもとで行われているのか」を考えることが大事だと強調されていました。

門積先生:「こうした形は日本の教育環境でも徐々に広がりつつあります。しかし、その意図を理解して行われているのかというとそうでもない。形だけを真似しても十分な効果は得られません。なぜそうなのかを考えて実践することが大事です

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枠或では「みんなが学習者」の考えのもと、サークル対話が導入されている。

続いて授業形態の話へ。
オランダでは子どもの選択が何よりも尊重されるとのこと。教師の「こうあるべき」からではなく、子どもの「こうしたい」から始まる教育について、自身の実践を踏まえて報告がされました。

門積先生:「海外の教育を引き合いに出した時、すぐに一斉指導批判と結び付けられがちですがそうではありません。オランダも一斉指導の形はあります。ただ、一斉指導で行うところと子どもたちの選択に任せるところが分けられていて、意図を持って授業がつくられているのです。グループ学習をするもよし、一人で集中して個別学習するもよし。そこは子どもたちに任されています。

自分のクラスでは『ブロックアワー』という学習に取り組んでいます。誰と学ぶのか、どこで学ぶのか、何を学ぶのか、学んだことをどう表現するのか、そんなことを考えながら子どもたちが自分で週計画を立てています。それは家庭学習の宿題も同様。自分自身で考え、選択して学ぶことでこそ『自立した学び手』が育つのではないでしょうか」

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門積先生のクラスでは家庭学習もこの形。何をどれだけやるかは子どもたちの選択に委ねられている。

最後は「日本の教育がダメで海外の教育が良い」といったような安直な考えに陥るのではなく、意図や目的を理解して、自分たちの教室に合うよう仮説検証を繰り返していく必要があると説明。机上の空論で終わらず、自身が日々の実践の中で仮説検証し続けているからこそ、説得力のあるお話でした。

続いての発表者は奈良県の小学校教諭であるとっくん。

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自身が学級で行っている実践を中心に、「子どもから始まる学び」「教育実践の効果」などを発表されました。

とっくん:「オランダの教育で良かったと感じたのは、子どもから学びが始まっているところです。こちらからカリキュラムの枠にはめて行うのではなく、子どもから出てきた好奇心や欲求を起点に学習が行われている。日本では『いつまでにこれを学ばなければならない』といったものがありますが、これって教師の都合であって、全然子どもから始まっていないんですよ」

オランダの教室を見て柔軟な学び方に感動しただけでなく、更にそのためにどういった仕掛けがあったのかについてもお話されていました。

とっくん:「僕は常々『計画は単に計画であって目的ではない』と思っていて、目的のために柔軟に計画が変更されるのは良いことだと捉えています。こちらの都合から始まるのではなく、子どもたちのリズムに合わせる。そのためにも自分の授業では『余白』を作るようにしています。こちらの計画通りにいかないことがあっても、『余白』があれば子どもたちのリズムに合わせることが出来ますからね」

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門積先生の発表にもあった「ブロックアワー」。片岡先生も授業で挑戦中。

発表の終了後、会場から出た「新しい教育手法を取り入れると保護者や学年団の先生から批判も出ると思うのですが……」という質問に対しては、「テストの点数の推移や子どもたちの変化をデータ化して説明している」との返答が。今のところこちらの取り組みは好評で、データとしてもいい結果が出ているそう。
こうした地道な取り組みを重ね、周りからの応援を得て、日々子どもたちと向き合っているとのことでした。

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子どもたちへのアンケート結果。

オーストラリアの教育〜北垣 貴寛〜

そして今回急遽私からのお願いで、同時期にオーストラリアへ行っていた関西大学総合情報学部の学生、北垣くんにも発表を依頼。

北垣くんのインタビュー。

前の発表を受けて、オランダ教育との共通点や自身の感じたこと、気付いたことをまとめて発表してくれました。

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訪問先の「Gardenvale Primary School」

北垣くん:「先程のオランダの発表を聞いていて、職員室がフリースペースのようになっているところや、グループ学習が盛んなところなど、オーストラリアの教育と重なるところが多いと感じました。オーストラリアの教育を見てきた中で僕が驚いたのは、子どもの積極性の高さです。教師からの発問の途中でさえ我先にと手が挙がる。彼らの能動的な学びの姿勢に感動しましたね」

オーストラリアの子どもたちが能動的に授業に取り組んでいる背景を、北垣くんは教室の雰囲気、教師の対応からこう推察します。

北垣くん:「教師が失敗に寛容な姿勢で授業を行っているのは大きいと思います。子どもたちが何か初めてのことに挑戦して失敗しても『ナイスチャレンジ!』と褒め称えるのです。そうした安心できる環境があることで、子どもたちは結果の成否に関わらずどんどん積極的に挑戦するようになるのではないでしょうか」

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履修する科目の一部。「Mindfulness」のように、「心の状態」を扱う授業も大切にされている。

最後にオーストラリアの教育で取り入れられているICTについても発表。教育におけるICT環境の充実はもちろん、子どもたちのリテラシーの高さについても指摘していました。

北垣くん:「子どもたちの登校管理はICT端末で行われています。これはいざ災害が起こった時に、事務の方が遠隔で誰が学校にいるのか、いないのかを把握するためだそうです。また子どもたちはそういった端末を使いこなすデジタルリテラシーが高く、学校の宿題の提出をメールで行ったり、質問をしたりするなど、あらゆる局面でICTを活用していました」

ICT環境に着目するあたりはさすが総合情報学部の学生さんといったところ。日本の大学ではこうした取り組みが多く導入されていますが、小中学校ではまだまだだと聞きます。
今やITの知識技能は一般教養で、スマホやPCは使えて当たり前の時代。こうした話を聴くたびに、早い段階からデジタルリテラシーを磨いていく必要性を感じます。

枠惑交流会〜播磨の教育交流〜

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オランダ、オーストラリア教育の発表が終わり、次はサークルをつくって座談会へ。海外の教育と日本の教育の違いを知り、「自分のクラスで実現できることはあるのか」「挑戦する際に障害となるものとどう向き合っていくか」など、盛んに議論が行われていました。

「挑戦したいと思うものの、日々の業務に追われて中々実践できない」というのが各テーブルの現場教員から出てきた本音。
日本の教員の労働時間の長さ、業務の多さは世界的に見ても深刻なレベルです。子どもたちに安心できる環境を提供するためには、まず教員たち自身が安心して働ける環境をつくる必要があるのではないでしょうか。

イベントを終えて

今回のイベントでは、枠惑の先生方と地域で活躍する関西大学の北垣くん、兵庫県加西市の北条高校でキャリア教育プロジェクトを担当している宇高くんをつなげることが出来ました。

加西市にある北条高校のキャリアガイダンス。

「今後小中学校で始まるキャリア教育に向けて、地域と連携していく必要がある」

現場最前線で子どもたちと向き合っている門積先生はそう言います。兵庫県宍粟市で育ち、人口流出や過疎化を肌で感じてきた先生。学校内だけでなく、開かれた学校として地域と連携し、一丸となって子どもたちを育てていかないとこの先地域は生き残れない。

そうした危機感から、今回のイベントは身内だけでなく、開かれたセミナーへと形を変えました。地域全体の教育力を高めていくべく、枠惑はつながったプレイヤーたちと新たなプロジェクトを仕掛けていくことに。

一人ひとりは微力でも、集まれば大きなことを成し得るかもしれない。
現状の教育課題を打破するために、同じ志を持つ者が集い始めた学習会「枠惑」。

静かな革命の火は、ここ播磨の地から広がっています。

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この記事を書いた人

ロペス

1992年、奈良県生まれ。少年の心を忘れない26才児。paletteの編集長兼ライター。通称「ロペス」。畿央大学教育学部を卒業後、東京の人材派遣会社に就職。その後小学校教諭、塾講師、認定子ども園保育補助を経て現職。人、モノ、場所の魅力を引き出し、記事として発信するため日々奮闘中。目下の悩みは「終わらない成長期」。ダイエット方法募集中。