一人の夢を工場の夢に。自社ブランドの立ち上げに挑む若き職人。【イサム製革:中島 隆満】

日本の皮革産業を担っているのは、ここ播磨の地だ。
そう言うと少し大げさだろうか。

「皮革の産地」として播磨の地名が初めて書物に登場したのは平安時代。当時の法律書「延喜式」にその名が記されている。今を遡ること、なんと1000年以上も前である。
ただ歴史が長いだけではない。数字で見ても、企業数・出荷額では全国の2分の1以上を占め、特に成牛革の生産量は約7割のシェアを誇っている。

しかし近年、安価な海外製品に圧され国産皮革の国内シェアは一桁台までに急落。現在そのほとんどが海外産となっている。逆境に追い込まれた播磨の伝統産業は起死回生を図るべく、同じく国内の伝統産業である京都の染色業やアパレル業と連携。革の可能性を引き出し活かしてきた。

参考記事。

世相を読み、ビジネスモデルを柔軟に変え、「革の魂」を受け継ぎながらも革新を続けてきた職人たち。そうした伝統産業復興の勢いが増す群雄割拠の姫路皮革業界の中で、昨年8月若い一人の男の挑戦が始まった。

姫路市花田町高木にある「イサム製革」の3代目、中島 隆満。

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「まずは三代目として周りのみんなに認められるところからです」

と謙虚な姿勢ながらも目線の先には世界をとらえており、来年には海外のイベント出展という挑戦も視野に入れている。

「どれだけ素敵な夢を描いても、組織でやっていく限り一人では絶対に叶えられません。みんなに認められてついていきたいと思ってもらえるような人間になってこそ、それが可能になると思っています」

次期代表としての意識からか、考え方は既に経営者寄り。組織の代表者である以上、自分ひとりが食えたらという話ではなく、組織全体で食べていかなくてはならない。

地盤は固く。視座は高く。

加古川ライター、ロペスの人物インタビュー。
今回は伝統を受け継ぎ、重責の中であっても革の可能性を模索しながら日々修行を重ねている26歳の哲学に迫った。

中島 隆満(なかしま りゅうま)

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兵庫県姫路市出身。1993年生まれの26歳。姫路市立城北小学校、広嶺中学校を経て東洋大付属姫路高等学校へ。中学校から武道を習い、高校時代は弓道部に所属。卒業後は趣味の絵を活かし、神戸芸術工科大学のビジュアルデザイン学科へ進学する。在学中は特撮(特殊撮影技術)サークルに所属し、幅広いクリエイターと関わり合いながら学ぶ。また両親の勧めもあり、語学留学のためアメリカのフロリダ州へ。その後一旦帰国し、再度同国のシアトルにある短期大学で経営を学ぶ。帰国後の昨年(2018年)8月よりイサム製革に就職し、現在三代目として修行の日々を送っている。

イサム製革

昭和58年創業。皮革産業のメッカである兵庫県姫路市花田町高木に工場を持つ。主に革のなめし、染色、仕上げの製造を行っており、主要取引先は(株)ニッピ・フジタ、(株)リーガルコーポレーション、(株)アシックス、ミツワ産業(株)、(株)ストック小島、(株)SADO、(株)吉田カバン、(株)エールック、ユニタス・ファーイースト(株)など。紳士靴、婦人靴、鞄、ベルトなどの製品に利用されている。

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日常に近い「仕事場」

ロペス:今回は取材をお受けいただきありがとうございます。姫路が誇る伝統産業「皮革」。その現場見学とインタビューができ、私自身とてもワクワクしています。

中島:そう言っていただき光栄です。今日はよろしくお願い致します。

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ロペス:まず初めに気になったことなのですが、家業を継がれる方は経営系や専門技術系の大学に進学するものだと思っていました。ビジュアルデザイン学科というと今のお仕事に直接関係しそうにありませんが、どういった経緯で進路選択をされたのですか?

中島:大学進学当時は「家業を継ぐ」といったことは全く考えていなかったんです。ですから好きだった絵を学びたいとの思いからビジュアルデザイン学科に進学しました。両親も「お前のやりたいことをやってみなさい」「できるところまで挑戦してみなさい」と背中を押してくれました。

ロペス:最初は家業を継ぐ意思は無かったと。

中島:はい。幼い頃からここ(工場)が生活の一部だったので、身近すぎて自分が働く場所だとイメージしにくかったのかもしれません。大学在学中は所属していた特撮サークルにのめり込んでいましたし、家業を継ごうと思ったのはもっと先になってからの話ですね。

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ロペス:家業を継ごうと思ったきっかけについて伺ってもいいですか?

中島:順を追って説明すると、最初のきっかけは留年でした。大学時代サークル活動やその他様々な活動に時間を割き過ぎたせいで卒業できなくなったんです。やりたいことがたくさん見つかったのは良かったんですけど、広げた風呂敷をどう収めたらいいのかわからなくなっちゃって。これはマズいと両親に相談した時、アメリカへの留学を進められました。当時卒業後の進路に悩んでいたこともあり、「いい経験になるから」と。

ロペス:たくさんのやりたいことが見つかっても、進路選択の際にはどの可能性を選ぶか、つまりどの可能性を捨てるのかを考えないといけない……。それはとても難しい。

中島:おっしゃる通りです。そういった経緯もあって、目の前のチャンスを活かしたいと思いアメリカ留学を決意しました。「家業を継ごう!」という意識に近づいたのはまさにこの留学の時でした。

「家業」への意識

ロペス:留学で何があったんですか?

中島:向こうで出会った留学生たちとの意識の違いを感じたんです。みんな自分が何者かというルーツを持っているし、そこに誇りを持っているんですよ。また「◯◯がしたい」と何かしらの目的意識を持って留学に来ている。それに比べて自分はどうか。自分が何者かを語ることができず明確な目的も無いまま留学に来てしまっている。そんな自分と彼らを比べて「これじゃマズい!」と思ったんです。

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ロペス:なるほど。彼らと過ごす中で「自分はどうなのか」という内省が行われた。その時に自身のルーツでもある実家の工場と向き合い直したということですか?

中島:はい。最初は小さな興味でした。自分のこれまでを振り返った時、そういえばうちの工場ってどんな仕事をしているんだろう?と気になって。まず働いてみようと思いました。祖父の代から続いてきたこの工場が、終わっていくのをただ黙って見ているだけのか。それはないだろうと。自分が海外で学んできたことを活かして、そこで何か出来ることがあるんじゃないかと思い始めました。

ロペス:それは例えばどういったような?

中島:英語を話すことができれば海外と取引することも可能です。ビジュアルデザインを学んだことを活かせば、商品の広報のレベルを上げることも出来る。やれることって探してみれば結構あるんです。だからまずはやってみよう、まずやってみて、やりながら考えようと思いました。

「3代目」として

中島:それで帰国後から工場の手伝いを始めたんです。正直なところ、ここまでしんどいとは思っていませんでした。体力的にも精神的にもかなりきつかったです。同世代と比べてみても、会社務めの人間とは働き方や仕事の取り組み方がぜんぜん違う。僕の場合は自分ひとりが食えたら良いのではなく、従業員全員を養っていかないといけない。その責任の重さに押しつぶされそうになった時もありました。

ロペス:たしかに、「会社に行きたくない」「上司と馬が合わない」とか言っている場合ではない。下手をすると自分だけじゃなく従業員全員を路頭に迷わせることになる。

中島:そうなんですよ。ただ日を重ねていくうちに、この状況でいかに挑戦するのか、楽しんでやっていくかを考えて取り組めるようになりました。というか、そうじゃないとやっていけなかったと思います。プレッシャーに押しつぶされないように、自分自身仕事への取り組み方や考え方を変える必要がありました。

ロペス:結果、仕事への向き合い方がよりポジティブな方向へ変わったんですね。

中島:はい。今後組織のトップとしてやっていくにはそうした姿勢が必要になってくると感じています。人がついていくような人って、魅力があるじゃないですか。不平不満ばかりこぼしている人間に人ってついていかないと思うんです。「俺はこんなにしんどいんだ!」としんどさ自慢をしたところで何にもならないし、キリがないですから。

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「夢」は応援されてこそ

ロペス:「人がついていくような人」との言葉が出てきましたが、中島さんは「人を惹きつける魅力」というものをどう考えていますか?

中島:いくつかあって、一つ目は「信頼」だと思います。周りから認められて信じてもらえること。特に組織においてはこれが一番大事です。僕にもこの仕事を通して実現したい夢がありますが、夢って見ることは一人で出来ても、叶えるのは一人じゃ絶対無理なんです。「また社長が好き勝手やってるよ」と従業員に言われながら夢を実現することが出来ますか?無理でしょう。

ロペス:おっしゃる通り、よくある夢を実現したというサクセスストーリーではトップばかりに焦点があたりますが、必ずその周りに応援者や支援者がいます。彼らの信頼や協力が無ければ実現は難しかったはず。

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中島:そうです。繰り返しになりますが、だからこそまずは周りに認められることが大事なんです。今の僕はまだまだそこに至れていません。まずは日々の仕事をしっかりと行い、技術や技量を高める。評価を得て、そこで初めて「一人の夢」が「会社の夢」へと昇華される可能性を持つんだと思います。

ロペス:可能性を持つ、ですか。

中島:はい、可能性です。技術や技量を持っているのは信頼を得るための「必要条件」であって、「十分条件」ではないですから。夢に共感してもらい、ついてきてもらうためには、やはり最後に人となりや人徳といったものが大事になってくると思います。先程言ったように仕事への取り組み方がポジティブであるとか、チャレンジングであるとか、そういったところが魅力になるんじゃないでしょうか。

ロペス:自分も「この人なら何かやってくれそうだな」とワクワクするような可能性を感じさせる人には魅力を感じます。「信頼」という地盤の上に「魅力」があって人がついてくる。中島さんはそこを意識しながら日々働かれているんですね。

工場発の「自社ブランド」を

ロペス:最後に中島さんのこれからの「夢」を教えてください。

中島:今考えているのは「自社ブランド」を持つことで、これは先代からの夢なんです。現在お受けしている仕事の多くは問屋さんから依頼があって皮革製品を加工し出荷するという流れなのですが、素材選びから加工、商品化まで全て自社で出来れば素敵だなと。

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中島:工場からブランドを発信すれば、認知を広げたり販路開拓ができたりと、工場も大きくしていける。日本だけじゃなく「made in Japan」として海外展開に打って出ることも可能になる。そういった多角化戦略の一つとして考えています。

ロペス:これまでの技術を活かして自社ブランドを立ち上げる。それも先程の話にあったように、一人ではなく工場全体で、ということですよね。

中島:おっしゃる通りです。僕一人でつくっているわけではないので。僕だけじゃなく従業員一人ひとりが「いいものをつくろう!」という意識で取り組んでこそ、本当にいいものができあがる。そのためにも、まず自分自身がいいものをつくろうという意識で仕事に望まないといけないし、いいものをつくることができる技術を磨かないといけない。でないと従業員もついてきてくれないですから。

ロペス:いいものをつくり、工場が大きくなったその先に、中島さんは何があると考えますか?

中島:姫路の皮革が持つ可能性が国内だけでなく、海外へもどんどん広がっていくと思います。先人たちがここまで育ててきた伝統ある革をどうやって次の世代へ残していくか。そこに興味がありますし、ワクワクします。皮革産業は下降気味と言われますが、革ってもっともっとたくさんの可能性が眠っているんですよ。工場を大きくし、いいものをつくる中で、革の可能性を発掘し、活かしていきたいですね。

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写真協力:SAKASAMA WORKS

インタビューを終えて

「夢を見ることは一人でもできますが、叶えるためには必ず周りの協力が必要です」

組織を率いる立場にふさわしい人間になるべく、日々修行と挑戦を続ける若き3代目は言う。周りの人間に認められ応援されるためには、権威や力に溺れず地盤を固めて「信頼」を得る必要がある。もちろん、人となりや人徳といった「魅力」もそうだ。

他業種と積極的に連携を取り始め、伝統産業復興の動きが盛んになりつつある姫路皮革産業のど真ん中。
自社ブランドの立ち上げという「夢」を、一部だけでなく工場全体の「夢」とするために。

地盤は固く。
視座は高く。

若き3代目の挑戦が始まる。

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この記事を書いた人

ロペス

1992年、奈良県生まれ。少年の心を忘れない26才児。paletteの編集長兼ライター。通称「ロペス」。畿央大学教育学部を卒業後、東京の人材派遣会社に就職。その後小学校教諭、塾講師、認定子ども園保育補助を経て現職。人、モノ、場所の魅力を引き出し、記事として発信するため日々奮闘中。目下の悩みは「終わらない成長期」。ダイエット方法募集中。