【兵庫県・姫路市】「あくせく頑張らなくたって、そこにある世界はいつだって美しい。 」【Books だらり庵 庵主:クロギ タロウ】

こんばんは。
播磨の魅力を発信するメディア「palette」のライター、ロペスです。

先月末、ある衝撃的なニュースが飛び込んできました。

「大学生の5割超、読書時間がゼロ」実態調査で初、「本離れ」が顕著

大学生の1日あたりの読書時間が平均23.6分。全く読まない学生は53.1%といった結果。若い人が「読書」という文化から遠ざかりつつある現実を、数値と共に世に知らせたニュースです。

ここ数十年、情報収集の方法も多様化し、スマホ、PCなど、手軽で便利なツールがたくさん出てきました。ですから「紙の本」を使用する人が減ってきてもおかしくはありません。私自身、紙の本以外にもスマホ、PCといったツールで情報収集をしますし、本と比べてみてもたしかに便利です。

ただ読書好きなこともあり、どうしても「紙の本」が無くなったり、読書文化が失われたりするのに、一抹の寂しさを感じてしまう。自分たちは、もしかしたら紙の本を読む最後の世代なのかもしれない。流行り廃りの移り変わりが激しい現代において、消失の危険がある一つの文化。これも「時代」の流れなのだろうか。

そんな無常観に似た感傷に浸っていたある日、SNSで面白い動きを見つけました。「撮っておきの1冊」という、紙の本を装丁含めまるごと愛し、文章だけでなく写真で紹介するプロジェクトです。

本への愛が詰まった写真と、読書文化を遺す使命感に燃える投稿。そんなSNSのタイムラインを見て、去年のクリスマスイブに「是非お話を聞かせてください!」とソーシャルナンパをかましたところ、意気投合しpaletteでプロジェクトを担当してもらえることに。

彼は言います。

「誰かが遺す努力をしないと、文化は消えてなくなるんだ」

と。
今当たり前のように親しんでいる文化は、数十年後もしかしたら無くなっているかもしれません。実際に今、読書文化はその危機を迎えています。自分はただ、愛する文化が消えてゆくのを座して待つのみなのか?

否。

危機感に駆られ、時代に挑むべく彼が手に取った武器は、これまでにいくつもの文化や歴史を遺してきた「ペン」と「カメラ」でした。

加古川ライター、ロペスの人物インタビュー。今回のお相手はpalette随一の腕を持つ文化系ライターで、「Books だらり庵」の庵主をつとめ、消え行く文化を遺すために奔走する「書漂家」であるクロギ タロウ氏です。

クロギ タロウ

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1990年、宮崎県生まれ。宮崎県立宮崎西高等学校を卒業後、大阪大学文学部への進学を機に関西へ。大学在学中に小説の魅力にとり憑かれ、執筆に挑戦するために2年間休学。物語を生み出すことの難しさを知り挫折するもますます本を愛するようになる。現在兵庫県内の電機メーカーで勤務する傍ら、paletteにて「撮っておきの一冊」シリーズを執筆。本と人との物語を描いた「ホントレート」を掲載しているサイト「Books だらり庵」の庵主としても活躍中。

「撮っておきの1冊」シリーズ

本と人との物語。“ホントレート”連載中の「Books だらり庵」

「Books だらり庵」のHP。
「ホントレート」連載開始に寄せて。

読書の入り口

ロペス:インタビュー、長らくお待たせしました。多分濃い内容になるだろうなと思い、後回しになってしまいました……(笑)

タロウ:そんな大した内容話せないですよ(笑)よろしくお願いします。

ロペス:まず読書、本との出会いについて、聞かせていただけますか?

タロウ:はい。中学生の頃、父が誕生日プレゼントで京極夏彦先生の『続巷説百物語』を買ってきてくれました。それが読書に没頭した最初のきっかけですね

ロペス:……ん?「続」、ですか?

タロウ:いきなり「続」です。『巷説百物語』じゃない。だいぶトリッキーなプレゼントだと思いました(笑)でもね、「続」から読んでも面白かった。京極先生の本のすごいところはページ構成にあって、必ずページの最後が「。」で終わるところです。文章がページをまたぐことがない。「どのページを読んでも面白い」本づくりを心がけているそうで、どの本も文章の途中で他のページに移るってことがないんです。この構成はハードカバーから文庫化する際も徹底されていて、ページ数が変わっても、必ずページの最後は「。」で終わるんです。そのような考え方で書かれた本ですから、「続」から読んでも面白かったんだと思います。

ロペス:それは……すごいとしか言いようがない……。

タロウ:ですよね。凄まじいこだわりを持って本を書いてらっしゃる。出会いの1冊として「続」が出てくるのは変わっていますが、僕の場合はそうでしたね。

ロペス:お話を聞いていて思ったんですけど、本の内容だけでなく構成にまで目を向けられるなんて、かなりていねいに精読されているんですね。中高生の頃から読み込む方だったんですか?

タロウ:いえ、中高は「多読」「速読」でした。どれだけ楽しい本に出会えるかという姿勢で読んでいたので、ものすごいスピードで読んでいましたね。とりあえず「量」を読もうと、そう思っていました。

ロペス:え、そうなんですか?「撮っておきの1冊」の記事を読んでいて、文体、紹介の仕方から、昔から丁寧に読み進める「精読」タイプなんだと勝手に思っていました。本を読むスピードはどこで変わったんですか?

タロウ:大学時代の影響が大きいと思います。読書のスピードにおいてだけでなく、いろいろなものがゆっくりになりました。

「生きる速さ」が変わった大学時代

ロペス:大学時代、何があったんですか?

タロウ:大学入学後に受けた衝撃と就職活動、2年間の休学……色々ありましたね。大学に入るまでは「成績」に縛られていて、勉強、学力が全てでした。典型的な頭でっかちのいやーな子だったと思いますよ。学校には「0限目」という時間割があり、先生達が朝早くから出勤して勉強を見てくれていました。当然みんなそれを受けているので、更に差をつけるためには「0限目」より前にも自習をしなければいけなくて……勉強漬けの生活でした。高校の進学を目指すクラスって、そういう環境だったんです。朝から晩まで、読書と部活除いては全て勉強。2時就寝5時起きみたいな生活でした。本当馬鹿みたいな勉強方法をしていたなって、今振り返ってみて思います。

ロペス:上位校を目指す進学校のカリキュラム……苛烈ですね。

タロウ:でも大学に入ってみて、周りの学生を見て驚きました。みんながみんな自分のようなタイプの人間じゃない。受験戦争で他人を蹴落として、必死こいて入学した自分みたいな人ばかりだと思っていたんですが、そうじゃなかった。勉強だけじゃなく、趣味や部活など、様々なことを「楽しんで」きた人たちがいたんです。「何でこんな人たちがここの大学にいるの?」って最初は驚きましたよ(笑)

ロペス:阪大は血で血を洗うような受験戦争をくぐり抜けた、いわゆる「ガリ勉」みたいな人ばかりが集まっているものだと思っていましたけど、実際はそれだけじゃなかったと。

タロウ:はい。しかもそういう人たちって、テストで勉強漬けだった自分よりも普通にいい成績を出してくるんですよ(笑)成績開示の度に彼らが上位に食い込んでいるのを見て、「マジか!?」って衝撃を受けました。これまでの学力至上主義的な価値観は一気に崩れましたね。勉強も趣味も楽しんでいる彼らを見て、自分はもっと楽しんで良いんだ、楽しみ方には幅があっていいんだ、そう気づきました。

ロペス:それが「入学後の衝撃」ですか……。確かに同じ場所にいるのに、辿ってきた道が違うとなると、大きな衝撃を受けると思います。「こんな道があったんだ!」って。

タロウ:そうです。 今の読書や写真といった趣味の楽しみ方の背景には、あの頃の経験が大きく影響していると思います。

歩みを止めて

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ロペス:就職活動と2年間の休学について、お聞きしてもいいですか?

タロウ:就職活動では地元の役所を受けたんです。最終面接までは進んだんですが、そこで落ちました。これまでなんだかんだ上手くやってきて、ものすごいスピードで走ってきた人生で、初めて「止まった」んです。壁にぶち当たってひっくり返った。同時にエリートコースからも「外れた」。もう規定ルートには戻れないなと思いましたね。だからどうせ巻き返しが無理なら、やりたいことをやろうと考え、2年間休学して小説を書き始めたんです。

ロペス:一度挫折してスピードが落ちた……。そこで腐らずに切り替えて、やりたいことに挑戦できるのはすごいですね。

タロウ:入り口はエリートコースを外れた諦めでしたが、ひっくり返って立ち上がった時に見えた景色はこれまでとまるで違っていました。そこで自分の人生のスピードが変わったんでしょうね。諦めから始めた執筆活動も、やっている内に楽しいなと感じていましたし、その経験が無ければ本に対する「敬意」を持てていなかったと思います。

ロペス:「敬意」、とは?

タロウ:僕は執筆活動をするまで、作家さんを「すごい」と思ったことがなかったんです。本をずっと読み流すだけで、作家の先生方の尋常じゃない程の努力や並々ならぬ想いを知らなかった。いや知ろうともしていなかった。2年間休学して小説を執筆してみて、「小説を書くってこんなに大変なことなんだ」と。そういった「敬意」を持てるようになりました。

ロペス:なるほど。なぜ「撮っておきの1冊」の1撮目が『目であるく、かたちをきく、さわってみる。』なのかがわかった気がしました。一度立ち止まって物事とちゃんと向き合ってみないと、価値がわからないし「敬意」も持てない。そういうことですよね?

タロウ:その通りです。一度立ち止まり、本にちゃんと向き合ってみた。結果、本がこれまでに増してもっと大好きになったんだと思います。

ただ消費するのではなく、遺す

ロペス:では最後に、なぜ「撮っておきの1冊」を始めようと思ったのかを聞かせてください。

タロウ:僕は本が大好きです。もちろん読書という行為も。でも今、電子書籍の台頭や他の情報収集方法の発達にともなって、その行為自体が失われつつある。この先もしかしたら「読書」という文化は消えて無くなっているかもしれない。僕はそれは嫌だった。最初は「電子書籍なんて!」と考えていた時期もありましたが、人によって本の楽しみ方は違うし、自分の楽しみ方を人に押し付けるのは違うじゃないですか。だから紙の本が好きな僕は、電子書籍に挑むのではなく「紙の本を読んでいた人もいるんだよ」という記録を「遺す」方向で努力しようと思ったんです。

ロペス:「遺す」努力ですか……。

タロウ:今当たり前にあるものって、どこかで誰かが価値を認めて、遺そうと努力してきたから「在る」、「遺っている」んですよ。例えば「妖怪」っているじゃないですか?当たり前のように僕達は知っていますけど、昔柳田国男先生という人がいて『妖怪談義』を書いて、遺そうと努力していなかったら妖怪の存在は消えていたかもしれないんです。もちろん『ゲゲゲの鬼太郎』や『妖怪ウォッチ』などといった作品も生まれていなかった。

ロペス:なるほど。タロウさんは大学時代に一度足を止めて本と向き合ったからこそ、その価値に気づき「遺そう」と努力されている。

タロウ:そうですね。大学時代の経験がもし無かったら、猛スピードで走り続けていただろうし、本というものに真摯に向き合えてなかった。ただ本に楽しませてもらっているという、娯楽を消費するだけで終わっていたと思います。

ロペス:ちなみに、今後「撮っておきの1冊」をどうしていきたいか、構想のようなものってありますか?

タロウ:いずれ「人」にインタビューしてみたいなと思っています。本を愛する人にインタビューして、なぜその本が好きなのか、どういった影響を受けたかなど。本を読んでいる様子の写真とともに紹介できれば嬉しいですね。

ロペス:わかりました。加古川の読書好きを集めてくるんで、是非加古川で、paletteでやってください(笑)今後ともよろしくおねがいします!

タロウ:こちらこそ、今日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

インタビューを終えて

インタビューの記事を書くにあたって、もう一度タロウさんの「撮っておきの1冊」の第1撮目を読み返してみました。すると、今回のインタビューでお聞きした「生きる速さ」について書いてある箇所が。以下一部抜粋してご紹介します。

大事なのは、「ゆっくり」である。これは「きく」こと、「さわってみる」ことにも共通して言えるのだが、時代の奔流の中でもみくちゃにされていると、あらゆるものが一瞬で過去になってゆく。
台風の最中、氾濫する川の中に身一つ投げ込まれたと考えてもらうとより分かりやすいだろう。
暴れ狂う激流の中にあって、「あめにやぶられた すを なおしている くもを みまもること」ができるだろうか。

轟々と吠えながら耳に飛び込んでくる水の音を押しのけて、自分を呼ぶものの声を聴き取ることができるだろうか。

圧倒的な水の圧力にあらがって、流されてきたものをその手ですくい取ることができるだろうか。

見ようともしないだろう。
聴こうともしないだろう。
すくい取ろうという気にもなれないだろう。

そういう状態になっていないかな?
そういう状態って寂しくない?

猛スピードで生きる中で、見落としてきたものはないだろうか?
「見えて(see)」いるものは多くても、「見て(watch)」いるものは果たしてどれだけあるのだろうか?
そうした問いかけは、過去の彼自身に向けられたものかもしれません。しかし我々にとっても、その問は真に迫ってくるものがあり、歩みを止めて考える価値があるものだと思います。

段落の最後。彼はこう締めくくります。

ゆっくり歩いてみませんか。
あくせく頑張らなくたって、そこにある世界はいつだって美しい。

歩みを止めて、目の前のものにもう一度向き合ってみる。そうすると、今まで見えてきたものとまた違ったものが見えるかもしれない。

人が猛スピードで走り抜ける時代を、一歩一歩大地を踏みしめ足跡を残しながら進む書漂家クロギ タロウ。その眼には時代の忘れ物が映り、その一撮は次の世代に文化を遺す。これからも、速度制限のない高速道路をトップスピードで駆け抜ける現代人に、優しいブレーキをかけられる一撮をお願いします。

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この記事を書いた人

ロペス

1992年、奈良県生まれ。少年の心を忘れない26才児。paletteの編集長兼ライター。通称「ロペス」。畿央大学教育学部を卒業後、東京の人材派遣会社に就職。その後小学校教諭、塾講師、認定子ども園保育補助を経て現職。人、モノ、場所の魅力を引き出し、記事として発信するため日々奮闘中。目下の悩みは「終わらない成長期」。ダイエット方法募集中。